26歳の交換日記

1988年生まれのすみれとくみこの往復書簡

チンピラ女優のぼやき(すみれ)

「お前緑なら俺黄色」ふむふむと読ませていただいたわ。とくに子どもって敏感だから無意識にまわりから期待されている役割を感じ取って完璧に演じてしまうようなところあるよね。わたしたち、かなり敏感な少女時代だった気が。。

けど、今はそういう生き方はとても疲れる気がする。もっと楽に、肩の力を抜いて生きられた方が、心は自由になって、人生がちょっとだけ簡単になる気がする。

わたしの姉妹トークさせてもらうと、くみちゃんのむしろ逆で、いつも人の数倍目立っててぶっとんでるひとつ上の姉が「ハチャメチャ」的な要素をぜんぶ引き受けていたせいで、「手のかからない真面目でおとなしい妹」を演じてしまってたのね。お姉ちゃんが壊してひきちぎってしまった破片を、後ろから拾い集めて歩いていくようだった。まさに言葉通りお姉ちゃんはうちにあった様々なものをぶち壊したし、家族内のささやかな嘘や親のごまかしに真っ向から噛みついたもんだから、わたしはいつもお姉ちゃんと親の間に入って「家」を守ろうと必死だった。わたしが大人になっていくときにメッキがどんどん剥がれ落ちてゆくように粉々になったのは、きっとその無意識に引き受けてしまっていた「役割」に心底疲れ切っていたのもあると思う。とはいえ、今子供時代を思い出しても、どこまでがくみちゃんの言う「のっぴきならない真実の自分」で、どこからが「演技」だったのかはわからないし、その境はつねに曇りガラスのようにぼんやりとしているのよね。目を凝らして考えてみようとするんだけど、次の瞬間にはぶるっと身震いして「もういいわ!めんどくさいわい!!」ってなっちゃうってわけ。

それに、これはあくまで妹のわたし側の愚痴。お姉ちゃんからみたら、「わりと出来のいいこまっしゃくれた妹」がさぞかしうっとうしかったことでしょうよ!笑

 

さて、今日はわたし、9月の演劇祭の舞台稽古に行ってまいりましたの。今月から稽古してるんだけど、今日はふたつの意味でわたしにとって関門だったの。

ひとつは、わたしがこの二週間ひたすら試作を続けてきたフライヤーの使用の可否が決定するということ。

もうひとつは、初めて演出家の演技指導が入っての稽古であること。

 

今回、演出を劇団☆新感線っていう、演劇界では知らない人はいない有名劇団の方にお願いしているから、それももちろん緊張要素だったわけ。

 

朝からひたすら神様に語りかけて精神安定させて稽古に出向き、なんとか無事にフライヤーもわたしのデザインが採用されたし、さすが有名劇団の役者さんなだけあって演出も絶妙でメチャクチャおもしろくて、すごく楽しかった。なんていうか、自分で自分にびっくりする感覚が一番あるのは芝居なの。自分のどこにこんな人間が隠されているのか、まさにその、舞台に立つ瞬間まで知らなかった人間に出会うよう。今日は久々にそのエキサイティングな感じを味わえたわ。

 

ま、それはよかったんだけどね、ここから内緒話。笑 愚痴だから。笑

演技指導ってかなりな額(フリーターのわたしにとっては)払わなきゃいけないの。それは前々から聞いてて、役者仲間では「できるだけ演出家が来なくていいように自分たちである程度仕上げちゃおう!」っていう作戦会議をしてたのね。7月は、演出家が来るのは今日だけ……っていう話だったんだけど、稽古のおわり演出家の方から「いいよいいよ、俺来週も行くよ」って言われちゃって……もちろん、演出家はいてくれたほうがいいに決まってるんだけど、タダじゃないからね……金欠なわたしはヒエーって思ってしまったのよ。

フライヤー作成も大変で、夜な夜な作ってはちょっとデザインを変えて、印刷して、それでまた変えて、彼氏に意見聞いて、朝起きてから寝るまで仕事中も悩んじゃったりなんかして。もちろん自分がやりたくてやらせてもらってることだったし、自由にできるから楽しくもあるんだけど、プリンタのインクやらなんやらごちゃごちゃお金も時間もかかるのね。もちろんそういうのも全部みんな自腹でやっているわけ。

 

でまあ、何が言いたいかっていうと、自分がやったことに対して必ず対価を得られる仕事ってすごいなあ、と思っちゃったの。去年は同じようなことを会社でやっていて、当たり前のようにきちんとお給料をもらっていたということがすごい……。

芝居をやってると、「これは仕事=お金にはならない」という事実がつねに背中にくっついていて、「プロとアマチュアの違いってなに…」とか「これは趣味なのか…」とか常に堂々巡りなの。

 

「趣味でもいいから好きなことを続けたい」と言うと、「いいねえ、そうやって割り切れるの」とか言われることもあるけど、べつにわたしだって割り切ってるわけじゃなく、むしろいろんなことを犠牲にしてしまうことに悩んで悩んで悩みまくっても答えは出ないし、かといってやめることも他のことぜんぶ捨て去ることもできないから「もういいです、趣味でも何でもいいんです、わたしはこうやって生きるんですぅ!!」って言わざるをえないだけなんだよなあ。。とか一人で思ったり。

 

今回の芝居のセリフにもあるけど、女優ってのはほんと、いろんなものを犠牲にするわ!わたしのようなチンピラ女優が犠牲にしてるものなんて高が知れてるから引き換えに名声を求めることさえおこがましいしね。

けどやっぱり、わたし、芝居が好きなんだな、と、セイユーで買おうか悩んでるふりをしながらひたすらパンの試食をつづけながら思ったのでした。

 

オシマイ★