26歳の交換日記

1988年生まれのすみれとくみこの往復書簡

チャラ男に追いつめられてみた(すみれ)

くみちゃんのお母さん、ガーン!なんだね!!って、なんかふざけているみたいですみません。。

うちのお父さんがちょうど去年の夏に胃癌が見つかって、8月に胃を全摘してこの1年入退院しながら抗がん剤治療してきたところだったからびっくり。。でもほんと、そういうのがまさに“出てくる年”なんだね。

父の癌はかなり進行していたから、もう一年たつけど闘病はなかなかつらそうで、父が健康だったころ(といってもその間にひそかに癌は進行していたわけだけど)が遠い昔のよう。。どんどん痩せこけていく父を見て、わたしもいっときはひどく深刻になったけれど、たしかに「すぐ死ぬ」ってわけでもないし、あんまりダラダラ涙を流すのもちがうな、とか思ったりしながら過ごしてきた。まわりもだんだんその人が「病人である」という事実に慣れていくのよね。もちろん心配は心配なんだけれど。

くみちゃんのお母さん、そんな素敵な方なんだね。癌はどの程度進行しているかで治療から何から全部変わってくるから、初期であることを願います。

 

今日まさに、わたしは父の見舞いもかねて実家に帰っていました。わたしは若かりし頃実家が嫌で嫌でたまらなくて家出した身だから、距離は近いのにあんまり帰ってなかったけど、抗がん剤治療中の父に「いつまで生きてるかわかんないんだから一か月に一回くらいは顔見せろ」とはっきり言われてからは、やっぱりひと月に一回は絶対帰ろうと思うようになった。

お父さんは本当に真面目に闘病していて、娘のわたしにはそれが何より不思議。あんなに酒も煙草も脂っこい食べ物も大好きだった父が、今では食品添加物とかひとつひとつに目を光らせていて、今日もわたしがお昼に寿司買って行ったんだけど、その原材料名をいちいちチェックして、自分でつくった添加物研究ノートに照らし合わせて「これはやばい」とか「これは食べていい」とか言ってるの。おかしいでしょ。

もちろんわたしも一刻も早く元気になってほしいし、きっと元気になると信じているけれど、ここまでお父さんを真面目にさせる原動力は一体なんなんだろう、と思う。命への執着心。「ここで死んでたまるか」「いま癌に負けてたまるか」というのはなんとなく聞き覚えがある文句だけれど、その先に個々人の希望みたいなものがあるわけでしょう。それがなければ、そんなちまちま闘病生活なんて送らないじゃない、きっと。わたし、自分が癌になったとしても、あんなふうに真面目になれない、きっと。とか帰省の電車の中で思ったりしながら、わたしはひたすら「たまに帰ってくる明るい娘」に徹しつつ、この治療の先の父の姿を信じることにも、慣れてきた。

 

くみちゃんのお兄ちゃんってすごく優しそうだね。その”歓迎する感じ”わかるなあ。きっといつも引っかかっていたのね。やっぱり家族なんだよね。わたしにとって「壮大な孤独と不思議」を背後に匂わせるミステリアスなくみちゃんのまわりに、そんな温かな視線があることを、心から嬉しく思ったわ。

 

そんなんでさ、今日はいろいろ思うところあり、「それにしても信じられないくらい金欠だよなー」とか考えながら、親が持たせてくれた蜂蜜とか入っためっちゃ重い紙袋引きずりつつ帰りにサンシャイン通りのツタヤでDVDを返して(そういえば、このDVD『ぼくを葬る』っていう映画で、癌で余命わずかになった青年が静かに自分の死を迎え入れていく話だった!偶然。。)いつもの通りすっぴんに髪ぼさぼさでノロノロ歩いてたら、

 

「おねえさあん!おつかれさまですーー!」 (わたし:※無言でスタスタ歩く) 「ねね、いや、君だから、待って待って。」 (わたし:※無言でスタスタ歩く) 「あ、これ、これさあ、ナンパなんだけど、あはは」 (わたし:※無言でスタスタ歩く) ね、これから何すんの?あ、帰って、飯食って、寝る、てきな?あはは」どんどんわたしを道の端っこに追いこんでいく (わたし:「え、まあ……」※なんとか無視して歩き続けようとする) 「ね、いくつ?」どんどん近寄ってくる (わたし:「あ、二十代です……」※道の端に追い込まれて歩きがノロくなる) 「え、まじ?18くらいにしか見えなーい!オレ、いま25」 (わたし:「あの、女の子ほかに沢山いるんで……」※と言いつつ、ついに男と視線を合わせてしまう) 「いやね、もうオレ、君しか見えなくなってしまった!ねえ、姫!これからオレのミッションを説明するとね、姫とコンビニに行くことなんだー!!」(わたし:「はあ……」※ついに男に追い込まれて立ち止まってしまう!!!)

 

そうなんです、ついに立ち止まってしまったのです。細身の、身長はわたしと変わらないくらいの金髪THE・チャラ男くんに、わたしは追い詰められてしまったのです!

 

なんとか丁寧にでも頑なに断りながらまた歩き続けたら、「駅行っちゃうの。それはやだよお。そっかあ、どうしてもだめかあ、じゃ、次のミッション行ってくるわ!」と、彼は颯爽とまた人ごみの中に消えていったわけですが。。

 

なんてゆーの、この、追い詰め力!半端ねーな!と思ったのです。なぜかなぜか追い詰められて立ち止まってしまったのです。こんなにも無視しているというのに。。あの力、一体何!???

 

そういえば、二週間前にわたしたちが追い詰められた居酒屋客引きの「せかいちくん」を、わたしはあれからよく巣鴨駅前で見かけます。彼は一生懸命頑張っているわよ。わたしが今日出会ってしまったチャラ男くんなんかよりずっと柔らかくセクシーに。しかし今日は別の男性が立っていました。きっと久々の休みに羽を伸ばすことを決意した「せかいちくん」は今頃、きめ細やかな色黒の肌と魅惑の瞳に日ごろの客引きで鍛えた追い詰め力を存分に生かして、年上のナイスバディの美女たちを六本木で捕まえていることでしょう・・・